グリム童話に学ぶ、現代で勝ち抜く知恵① (20020721)

 

勇敢な仕立屋さん

 

銀座あたりを歩いていて突然「あなたの一番好きな本はなんですか?」と聞かれたら、たぶん「赤毛のアン」と答えてしまう僕だけど、「あなたの人生に一番影響を与えた本はなんですか?」と聞かれたら、きっと「グリム童話」と答えてしまうに違いない。

「ヘンゼルとグレーテル」とか「赤ずきんちゃん」とか、みんなが知ってる、あのグリム童話です。

 

厳しい現代を勝ち抜かなければならない企業戦士に必要な、ありとあらゆる知恵がグリム童話には目一杯詰まっていることは、実はあまり知られていません。

書店を覗けば彷徨えるサラリーマン向けに、数え切れないほどの「知恵本」があるけれど、そんな役に立たない本はさっさと燃やしてしまって、僕と一緒にグリム童話の奥深い世界を冒険しましょう。

 

という訳で、第1回目は「勇敢な仕立屋さん」です。

 

子供時代に少年少女世界文学全集で読んだ時、「童話には教訓とか戒めとかあると思うんだけど、この話から一体何を学べばいいのだろう」と本気で僕を悩ませた一編です。

 

ある夏の朝、小柄な仕立屋さんが、行商からジャムを買うところから話が始まります。

仕立屋さんが買ったばかりのジャムにたかる蝿を布きれで引っ叩くと、なんといっぺんに7匹の蝿が死んでいました。自分の意外な才能に驚いた仕立屋さんは「一撃七匹」と帯に縫い付けて、その帯を腰に巻いて「世界中にふれまわってやるんだ」と町に出て行きました。

 

ここまでたった約2ページの中に、人生の成功への知恵が実は隠されていました。

 

成功への知恵1.些細なことからも自分の可能性は見出せる。

成功への知恵2.自分の長所や才能は自分がアピールしなければ誰もアピールしてくれない。

 

さて、それから仕立屋さんは、町で大男と力比べをします。

大男は「この真似をしてみろ」と言って石を握りつぶすと、石からしずくがぽとぽと垂れます。

仕立屋さんは「そんなのお茶のこだい」と言ってポケットからやわらかいチーズを取り出すと、それをぐっと握りしめてしずくを垂らします。

今度は大男が「これならどうだ」と言って石を見えなくなるくらい高く放り投げます。

仕立屋は「なんだ、やっぱり地面に落ちて来たじゃないか、俺が放ってみせらぁ」と言って今度はポケットから小鳥をつかんで、空に投げます。

小鳥は喜んで飛んで行ってしまい、二度と戻って来ないのでした。

 

成功への知恵3.勝ち目のない相手には正攻法で挑むな。

成功への知恵4.自分のポケットの内は決して明かしてはいけない。

成功への知恵5.チーズと小鳥は常に携帯しろ。

 

さあ、これだけの含蓄のある教訓を得ることができました。

 

さて、それから仕立屋さんはあの「一撃七匹」の帯のおかげで「一うちで七人も殺す勇者」と勝手に勘違いされて、いつしか王様に仕えるようになります。

ただ、昔から仕えていた家来たちが王様に「彼と一緒にはいられない」と不満を言い出したので、たった一人の新参者のために忠義の家来たちに出て行かれては困ると思った王様は、仕立屋さんを追い出すために「森に住んでいる二人の乱暴な大男をやっつけたら、一粒種の王女と領土の半分を与えよう」と無理難題をふっかけます。

仕立屋さんは「承知した」と返事をすると、たった1人で大男たちのいる森に入ります。仕立屋さんは木陰で昼寝をしている二人の大男を発見すると、彼らを仲間割れさせるためそっと木に登り、二人の真上から胸を目がけて石を落とします。

互いに相手が寝ている自分を殴っていると勘違いした大男は、大喧嘩を始めて結局二人とも倒れてしまいます。

最後に仕立屋さんが二人の胸にとどめの剣を一発、二発と突き刺して殺してしまいました。仕立屋さんは王様に約束の褒美を願い出たけれど、王様は約束したことを後悔し、次々に仕立屋さんに難題をふっかけます。

仕立屋さんはその知恵と勇敢さで、課題を難なく片付け、結局王女と領土の半分を手に入れます。

 

成功への知恵6.自信たっぷりに振舞えば、実物よりずっと偉く見えるものだ。

成功への知恵7.頭を使って実力者同士を戦わせろ。最後に美味しいところを持っていけ。

成功への知恵8.もし、人生をやり直せるのなら、仕立屋さんがいい。

 

なんとたった14ページのお話の中にこれだけの珠玉の知恵が埋もれていました。

実はグリム童話は教養ある真の大人こそが襟を正して読む物語だったのです。

このお話が一体何を言わんとしているのか、少年時代の僕が理解できなかった訳です。

 

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